水曜日, 7月 11, 2012

坂の上の雲〈5〉



以前大河ドラマとかでも大きく取り上げられていた。
児玉源太郎が乃木希典に代わって旅順の総指揮をとる場面。
乃木の対面を保つため、大山巌から預っている委任状は出さずに、
指揮権をちょっとの間貸してくれ
とした。

ただし、乃木以下の将校たちには指示は
「次に述べることは命令である」
とし、反論には
「陛下の赤子を、無為無能の作戦によっていたずらに死なせてきたのはたれか」
と強い口調でむかった。

日本軍は上から下まで全員が「国」というものを意識し参加できたはじめての時期で、集団的催眠状態にあった。
旅順攻略指導層が失敗している作戦でも何度も同じ作戦を取り幾万の日本人の血が旅順に吸われていった。
それでも日本人たちは新しい愛国という集団催眠の中で死地にただ向かっていった。

一方、ロシアは日本と事情が異なり、戦争はすべて貴族が指揮するもので、指導者層に貴族以外が入ることはまれだった。
ロシアは国の体制も制度疲弊を起こしていて、勇猛果敢に戦う軍人もいれば、官僚機構のなかで自分がマイナス点とならないことだけを考える人間もいた。
そのなかで旅順を
「まだ充分戦える状態であったのに降伏した」
として、戦後、ロシア側の旅順責任者は本国で死刑を宣告され、乃木が死刑を免れるよう工作した

日露戦争前から日本と同盟を組んでいたイギリスは、バルチック艦隊を執拗に追跡したり、アフリカ地方などの寄港する国/地域で石炭を補充させないよう圧力をかけたりした。
旅順などで日本の優勢が伝わるや、ロシアと同盟国だったフランスも徐々に、この欧州の軍事/政治とは関係のないロシアでの極東での道楽につきあいきれず、徐々に一線をおきだす。

攻略後、203高地を爾霊山(なんじの霊)として詠んだ乃木さん。
司馬さんの評価では、軍事に向かないだけで詩歌の才能では指折り、と。

旅順が落ちたとはいえ、当時最強と言われたコサック騎兵とバルチック艦隊が次は日本軍を待ち受ける。

月曜日, 7月 09, 2012

坂の上の雲〈4〉



この巻は主人公とされる秋山兄弟は出てこず、日露戦争の陸海両面を中心に外交、スパイ、日英同盟、戦費調達の描写が主人公。

乃木希典と伊地知幸介をトップに抱える旅順攻撃用のこの乃木司令部を
「世界戦史にもまれにみる無能司令部」
とこきおろす。
ここまで書かれると、遺族だったり子孫だったりの気持ちはどうなんだろう...とかいらんこと考えてしまったり。

司馬さんは乃木が嫌いとかそういう議論も呼んだようだけど、殉死とかを読むと、軍事に向いていないだけで他の才能があった。これはこれで魅力のある人間だしいい人生だ、と思わせる。

メモ:

農業社会
有能無能の価値基準はなく、自然の摂理に従って、きまじめさと精励さ嵩が美徳。

狩猟社会
それぞれの能力によって部署に配置され、全体の一目標のために機能する。
その中では指揮者が必要。この社会では人間の有能無能が問われる。
世界史的にみて、狩猟民族は軍隊を作ることに熟達している。

金曜日, 7月 06, 2012

坂の上の雲〈3〉



日露戦争決戦前夜

ロシアの性癖とも言える領土拡大、南をそして不凍港を求める活動に日本というネズミが巨像に立ち向かわざるを得なくなる。
日露戦争の、坂の上の雲の主役のひとり、児玉源太郎が渋沢栄一に向かっていった言葉が象徴する
「・・いまなら、なんとかなる。日本としては万死に一生を期して戦うほか、残された道がない。」
とまでいうと、児玉は両眼からおびただしい涙を流した。

日清戦争で活躍し、日本の海軍の礎を作った山本権兵衛が海軍大臣のとき、日露戦争で欠かせない旗艦“三笠”を英国に発注した。
発注しなければいけない状態だった。
しかし、資金繰り逼迫で万策つき、どうにも前払い金が払えない。
時の内務大臣西郷従道は、事情を聞き終えると
「それは山本さん、買わねばいけません。
だから、予算を流用するのです。
むろん違憲です。
議会で追及されて許してくれなんだら、二人で腹を切りましょう。
二人が死んで主力艦ができればそれで結構」

司馬さんの作品の中では比較的時代が近いので
この時代にはこんな人間がいたんだ、まるごと愛国だ、それもそこらじゅうにいたんだ
ということでアツくなれる。

正岡子規が亡くなり、平和の時代が終わりを告げ、日露戦争へと移っていく。