いよいよ最終巻
内容が多く1エントリーにまとめるには無理があり支離滅裂にならざるをえない><
司馬さんの作品の数少ない不満は、地図が少ないこと
今回も上巻に少し載っていたが読み進めていく上で足りない
のようなものがあればよかった
(漢が載ってないけど三国志とか知ってれば充分か...)
中国と日本の歴史を理解する前にわかっておきたいことが
日本は局所的には飢饉があっても気候に恵まれているため全国的な飢饉になりにくい
中国はまれに全国的に飢饉に陥ることがあり、また異なる文化で食料を奪い合うこともたびたび
そんな中国であるからこそ、人々を食わしていける人物は英雄となる
英雄となっても食べさせていけなければさらに大きな英雄を求め、英雄のもとに人が次々と集まっていく
相変わらず項羽に百戦百敗する劉邦
逃げ出したいばかりに、「誰か漢王を代わってくれ」と張良や蕭何に毎度言い出す
その度に韓信や配下ではないものの項羽に悪い感情をもつ彭越に項羽を攻め込んでもらいなんとか目をそらしつなぐ
この巻では俄然韓信の存在感が増す
Wikipediaにも軍事史上名将と書かれるほど
劉邦が項羽と戦っている間に別働隊として働き、魏/趙/代/燕と次々にこの軍事の天才は落としていく
功績が大きすぎる配下はいつでも妬まれ落とされるためか、すでに劉邦の領土よりも大きくなっている韓信も「独立」を疑われ噂される
大国である斉を攻める、と言ったまま半年以上も待機している韓信
たしかに劉邦によって引き上げられたものの、「兵を送れ」と言われるたびに送ってきた韓信はすでに最初に劉邦から借りた資本は返しているし、送るたびに負ける劉邦に貴重な兵を送っても無駄だと思っている為か援軍してこない
が、劉邦は立場上いずれ韓信にも聞こえてしまうため表立っては韓信を批判しない
「俺が韓信でも独立するよ」
と項羽によって追われ兵を持たない劉邦は自嘲する
流れ流れて韓信の陣にたどり着いた劉邦は寝ている韓信をみつけ
「二千の兵を連れてさっさと斉を攻めろ」
と兵と全権委譲の印符を取り上げる、韓信はやむを得ず陣を発つ
韓信は劉邦を容易に亡き者にできたが呑まれてしまったのか強い恩義を感じていた為なのか
大国斉にわずか二千で向かうのを見て
「韓信がかわいそうだ」
と見た酈食其は
「自分が使者になるので斉にともに楚を討つ同盟を申し込もう」
と劉邦に告げ使者となる、劉邦はそれを韓信に伝えなかった
酈食其は難しい交渉を成功し、斉王は漢王劉邦と組むと約束した
韓信は交渉成功を知ったものの、配下の蒯通から
「我々は数ヶ月、数年かけて一国一国を落としてきた。
今この同盟を認めてしまえば我々の努力とこの舌先の活動が同一と評価されるがそれでもよいのか」
とさかんに勧めた。蒯通という配下さえいなければ、どのみち劉邦の皇后に疎まれていたかもしれないが、韓信ももう少しよい最後を迎えられたのではないか
同盟がなったと見て軍を緩めていた斉の国の城を次々と落としてしまう
「油断させる為でこれが狙いだったか!」
と激怒した斉王は酈食其を釜に入れて煮殺す
酈食其の最後も壮絶
「わしがあんたの前で述べた言葉はことごとく真実だ
あんたはこの酈のまなこを見、言葉をきいた
それでもなおわしという人間がわからずに烹ようとしている
つまりは腐った人間ということだが、そういう男に命乞いをするためにわしは韓信の陣営を行こうとは思わぬ
韓信はいいやつだ
それ以上に、このおれはいい士(おとこ)だ
士とは絶体絶命の境地に来てはじめて真価のわかるものだが、いま自分の命の惜しさに韓信のものにゆけばわしは士でなくなる
烹ろ
烹られるこのによって士になりうるのだ」
と言って斉王に唾を吐きかけた
斉は韓信に占領された
残された斉王は項羽と組む使者を送り、それに答えた項羽は有能な武将を送るも韓信はそれを河川を利用し破る
蒯通は韓信に仮の斉になるように勧め劉邦に使いを出す
劉邦は相も変わらず項羽との戦いに追われ、「もうだめだ」と窮地に陥っていた
そこに仮の斉王と認めるよう韓信からの使い
内心は激怒していたが
「ここで怒って認めなければ韓信が敵側につくことも考えられる」
と張良/陳平から言われた劉邦は
「仮の王などせこいことは言うな、正式の王を名乗れ」
と使者に伝える
張良は内心
「韓信はこのままで無事だろうか」と心配をする
戦いに明け暮れ正室をもうけていなかった項羽もこのころ虞美人を得る
司馬さんによると、美人というのは正室を除く後宮での役職であったとのこと
劉邦は多くのことで項羽に劣っていたが、野盗をしていたこともあるだけに食料やその補給に対しては意識が高かった
楚漢戦争の途中、劉邦が城をすていっそ食料庫を抱きかかえて防戦しようと張良に相談
「陛下にしては、おめずらしく」よい案を思いつかれましたな、と返され実行に移される
項羽は窮地に陥る
項羽はそれまで意にもかけていなかった韓信に使いを送る
韓信は
「私は項王が嫌いだから」「それは私を用いなかったかです」
「項王は忙しかったからでしょうが、当時忙しかったのは項王だけではなかった」
「漢王は好きです」「私を用いてくれたからです」
「士というものは、そういうものだ」「漢王は私に上将軍の印綬をさずけ、みずからの軍を割いて幾万という兵をあたえてくれた
それだけではない
ときには自分が着ている衣をぬいで私に着せ、ときに自分が食べている食物を押して私に食べさせた。
さらにはわが進言を聴き容れ、わが計画を用いてくれた
それがなければいま斉の地に韓信という人間が存在していない
あなたは項王の使いとして千里の道をきた
以前の韓信に会うためでなく、現在の韓信に会うためだが、その韓信ができあがったのは項王によるものかどうか」
「あなたは以前の私を知っているという
以前の私なら項王の使いとしてあなたはやってきたかどうか」
「項王を憎んでいない、ただ用いてもらえなかったということだ」
「それを水に流すことはできない
過去が積み重なってこんにちの韓信がある
流せということは韓信そのものを流せということだ」
「私は死んでも漢王に対する節操は変えない」
と伝えた
蒯通も韓信に散々「第三の勢力になるように」勧めるが意は変えられず、劉邦の耳に入ることを恐れ狂人の振りをして韓信の元を離れた
項羽との話し合いの途上傷を負った劉邦は弱気になり
「もうやめたい」と言い出す
張良にも蕭何にも代わってくれと言い出す
劉邦の客のひとりが
「天下を二分する」
という条件を持って項羽へ停戦の使者となり、項羽に大いに気に入られ停戦となる
弱気になっていた劉邦をおさめるため停戦やむなしであった張良が
「楚に戻り力を蓄える項羽にいずれ陛下は滅ぼされます
百敗した陛下に一敗が増えたといってなんでもないではないですか」
と軍をひいている項羽へ追っ手を出す
が、そこは項羽に百戦百敗の劉邦、そこでも負けてしまう
韓信や彭越に援軍依頼を出しても彼らは兵を出さない
韓信の場合は複雑で、自分は劉邦に恩を感じているので劉邦を討つことができず、できれば項羽が劉邦を倒してくれれば何の感情も持たずに項羽と戦えると思っていた
張良から
「項羽を倒した後の恩賞を提示した方が乗ってきやすい」
と提言
もう二人に全部くれてやる、ぐらいの気持ちとなった劉邦は自分の領土よりも多いぐらいの地を約束する
食料がなくなり少しずつ項羽から逃げ出していく兵たち
韓信との戦いで兵も失っていく
もはやこれまでか、と思った夜、楚の歌が陣の外から聞こえてきた
「わが兵が、こうもおびただしく漢に味方したか」
と感じ入り(四面楚歌)、皆で酒を多いに呑んだ
舞い歌ううちに、虞美人が他の手に渡るのを恐れた項羽はそれを伝え一太刀で虞美人を絶命させる
そして項羽は陣の外へ脱出する
劉邦は項羽の首に一万戸という大きな報償をつけたため多くが血眼になって項羽を探した
項羽は
「劉邦が項羽を滅ぼすのではない、天がそうするのだ」
と自分の終焉を最後まで飾る
「大王よ、早くこの舟にお乗りください」
と楚人がすすめる舟も好意を謝し、この男なら自分のやったことと、やろうとした志をながく世間に伝えてくれるだろうと伝えた
この惨状は自分の武勇によるものではなく天が自分を滅ぼそうとしているのだ、と
「かつて叔父とわしを信じ、西に向かった八千の子弟はすべて死に、ひとりとして還る者はいない
かれらを送り出した江南の父兄がわしをあわれみ、ふたたび子弟を募ってわしを王にしてくれたところで、わしには彼らにまみえる面目はない」
と漢の騎兵団に向かっていった
漢軍で同郷の者をみつけ
賞金がかかっているという、同郷のよしみでこの首くれてやる
と自ら首を刎ねた
そこに人間の欲望が群がり、項羽の死骸を無数の漢兵が肉の一片でも得ようと群がった
死体は5つに別れ、劉邦はその5人に5等分して約束の領地を与えた
戦場には項羽と識別できるものは何も残っていなかった
紀元前二百二年、項羽三十一歳
物語は漢成立ではなく項羽の死によって終わりとなるがその後ももう少し書いてほしかった
自分で調べてしまったけど、やはり帝国は没落/腐敗していくんだなぁと感慨にふける
あまり恩賞を受け取り過ぎると妬まれると警戒し過小の恩賞しか受け取らなかった張良も、自信は普通の死を遂げたが子供は罪に問われ領地を没収された
さすが司馬さん、文句なく★★★★