水曜日, 6月 10, 2009
新史太閤記
家康や信長と比べると好意を持てなかった秀吉。
やはり魅力的な人物であったと評価が変わった。
継父と合わず「我に父なし」とのちのちまで語る。
母のみを鄭重にし、母が80歳で死んだときその悲しみで気絶したほどだった。
幼い頃は商人に憧れ各地を猿扱いされながら転々とする。
今川家領にいたころは
「(家康が捕虜に捕られているので)駿遠両国は三河に戦争をさせる」
と聞き、
「それでは三河が戦さ慣れしてますます強くなるだけだ」と冷静に分析。
京に憧れるこの地では醜い自分は人扱いもされないと尾張に求める。
駿遠両国で特に粗末に扱われ、
「われは狂言師のつもりかよ」
「いやさこの世は、いわば長い狂言の場ではありますまいか」
の言葉。
その顔を利用して、信長に拾われる。
欠員の出た足軽の位置に収まる。藤吉郎はその欠けた足軽の名。
信長が今川義元の大群を討った田楽狭間の戦い。
そこで身長145cmほどの猿が踊る。非力な猿が雑兵首一つとれる訳では
ないが、自分の青春を陰惨ならしめた駿府の侍が逃げ惑い、信長の
兵が猟犬のように処刑する。
今後の猿の新しい幕を大汗をかいてあげてくれているようであり、
猿は血と雨の飛ぶその群れのあいだを、司祭者のように駆け回った
に過ぎなかった。
この頃の慣例では、大将の首をあげた者が功労の一番であった。
が、今回の田楽狭間の戦いではわずかの加増。
首を獲れる状況までもっていったのは信長自身であった。
三千貫の大録を与えられたのは、桶狭間に今川義元の在ることを信長に
諜報し、かつ奇襲を勧めた梁田政綱。
古来、このような場合、武功として記録にすら残らずゼロ評価だった。
佐久間信盛、柴田勝家が失敗する、美濃攻めのための墨股の建築。
かつての兄貴分蜂須賀小六も藤吉郎の運とどんなときでも絶えず笑い声
を立て隅々まで励ます陽気さに惹かれ配下となる。
藤吉郎は組み上げた材料を現地へ運ぶという方法で短期間で城を築いた。
幼い頃から商人の考えが染み付いていた藤吉郎
録500貫を授かった時も
「これは難儀なこと。殿様に御損をかけた。倍の千貫はかせぎとらねば
ならぬ」と武家常識とはまったく違う思考法。
これは父信秀と義父斎藤道三の商人的思考を引き継いだ信長の思考に
藤吉郎が必死に合わせたためと考えられる。
10年以上を費やした最後の美濃攻め。
蜂須賀小六ら数人と、長良川の崖から稲葉山によじ上り稲葉山城に入り込む。
既に軍師になった竹中半兵衛から
「死にますよ」と。
「それでも登りますか」と聞く竹中半兵衛にたいして。
「もともとですから」
その日に食べる物に難渋した少年時代を思えば、今功名のために生死を
かけるなどなんでもない、というのが、もともとですからということ。
諜略外交を駆使する藤吉を見て、信長の思想も変わっていく。
が藤吉にとっては、信長の思想がそうであるので自分を懸命に合わせていった。
身分は違えど、お互いが影響を与え合うパートナとなっていく。
信長が立てた義昭のいる京護衛を任される。
礼儀は知っていてもわざと礼儀を無視し、自分は信長の名代であると誇示。
信長は人に使われたことがなく、また損得勘定のみで人が動くと考えて
いたため、想定外のことがたびたび起こった。
朝倉氏を攻めている途中、尾張一の美女と言われたお市を嫁がせた浅井
長政から戦を仕掛けられる。あれだけよくしてやったのにはて?と思うも
もともと朝倉氏と仲がよかった浅井氏、昨日今日の婚姻関係ではない。
いっきに窮地に立たされた信長軍、しんがりを秀吉が申し出る。
諜略ばかりでなく武功を立てろ、と仲の良い前田利家すらからも言われて
いた秀吉は武功を焦っていたため壊滅を防ぐ人柱を申し出た。
家康も秀吉を助ける。
後に信長は
「あのときの猿の働きがなければこの信長はなかった。
あの時徳川殿がなければ猿はなかった」と語る。
また、秀吉は信長の喜ぶつぼを誰よりも心得ていた。
わかりきったことでも最後の一押しは信長に尋ね、
「猿。うぬは小利口ぶっても、これほどのことがわからぬのか。こうせい」
と明快な指示をもらい、「あらうれしや」としんからの喜びをみせる。
そんな人物が憎かろうはずがない。
敵将の館に一人で行く秀吉にまたも竹中半兵衛が「殺されますよ」と忠告。
「まぁ、五分五分だな。が、仕事は常にそうしたものだ。」と答える。
信長に大名の地位を与えられてから血筋の良い女性を抱くことに血眼になる。
そのあたりの作者の描写もうまい。
自分に与えられた筑前を「おれの里へ帰った」というなど地域への密着
の仕方もうまいものがある。
中国地方の毛利との境を織田領としてきた秀吉に信長は茶器を与える。
それにも秀吉は大喜び。
また、黒田官兵衛の活躍や荒木村重に捕われた獄中生活など見所がある。
下巻に期待。
司馬さんの作品はとても面白いのだが地図が欲しい...