司馬さんの大作の第二巻、助走だった一巻よりも俄然おもしろくなってくる
この巻では日清戦争が起こる
日清戦争の勝利の原因は日本よりも中国国民が清という長期政権に制度疲弊を起こしていてしかも清という彼らにとって異民族が支配している政権のために自身の命を投げ出せなかったことがある
司馬さんのいいまわしは細部におもしろい
「猿まね」
と西洋人はわらった。
模倣を猿というならば、相互模倣によって発達したヨーロッパ各国民こそ老舗のふるい猿であるにちがいなかったが、しかし猿仲間でも新店の猿はわらいものになるのであろう。
とか、世界史も含め知った上での例えなので知的で適切。
朝鮮半島では、軍拡を行った時の首相である伊藤博文の評判がすこぶる悪くげんに
暗殺されている。
が、これは朝鮮半島にとって悲しい誤解というもので、伊藤ほど平和主義者はいなかったと筆者。
たとえば日清戦争は伊藤はまさか戦争になるとは思っていず、伊藤自身が「軍事権は首相でなく天皇に属す」としてしまったため後の昭和の戦争と同様抑えきれず、ほぼふたりのおとこによっておこされた。
短期に大勝をおさめるしごとは川上操六、しおをみてさっさと講和へもってゆくしごとは陸奥宗光が担当した。
秋山好古真之兄弟の言動メモ
「軍人は結婚をすべきではない
結婚をすれば家庭の雑事にわずらわされて研究もおろそかになり、ものごとを生み出す精神がぼけてくる
たとえ凡庸な者でも一心不乱であるかぎり多少の物事をなしとげるのである
凡俗の幸福は求むべきにあらず。おのれを軍神の化身なりと思え
のちの日本人よりもよほどその生涯のすがたや生き甲斐なりが単純で、その意味では幸福だったようにおもわれる
好古のころの日本は、いわばおもちゃのような小国で、国家の諸機関も小世帯であり、その諸機関に属してその部分部分を動かしている少壮の連中は、自分の一日の怠慢が国家の進運を一日おくらせるというそういう緊張感のなかで日常業務をすすめていたし、げんにそれらの連中個々の能力や勤怠がじかにその部分部分の運命にかかわっていた。
自分一個が今日一日停滞することが国家の成長をそれだけ遅らせる、小さな規模の国であるから自分の充実がじかに国家の充実と前身につながっていく、とこの時代の男たちの多くが考えていた。日本は大きくなりすぎたのかも。
戦術というものは、目的と方法をたて、実施を決心した以上、それについてためらってはならないということが古今東西その道の鉄則のひとつであり、そのように鉄則とされていながら戦場という苛烈で複雑な状況下にあっては、容易にそのことがまもれない
明晰な目的樹立、そしてくるいない実施方法、そこまでのことは頭脳が考える。しかしそれを水火のなかで実施するのは頭脳ではない。性格である。平素、そいういう性格をつくらねばならない。
自分は病床にあるため病によって自宅に閉じ込められている正岡子規が、米国留学に向かう真之に向け送った詩
暑い日は思ひ出せよふじの山
真之の特徴はその発想法にある
物事の要点はなにかということを考える
要点の発見法は過去のあらゆる型を見たり聞いたり調べること
教えられた、見聞きした多くの事項をひとわたり調べ、ついでその重要度の順序を考え、出題教官の出題癖を加味し、あまり重要でないか、もしくは不必要な事項は大胆にきりすてた
精力と時間を要点にそそいだ
人間の頭に上下などはない。要点をつかむという能力と、不要不急のものはきりすてるという大胆さだけが問題だ
従って物事ができる、できぬというのは頭ではなく、性格だ
目で見たり、耳できいたり、あるいは万感の書を読んで(真之は米国でもそうだったが、もの狂いじみた読書家だった)得た知識を、それを貯えるというよりは不要なものは洗いながし、必要なものだけを貯えるという作用をもち、事あればそれが自然に出てくるというような働きであったらしい
海軍大学に入りたいと希望したものの外国人であったため入学許可されず、代わりに海軍の権威マハン大佐に少ない人脈をたどって2~3度面会し、過去の戦史をことごとく調べるようアドバイスを受け、海軍省の書庫の入室許可を受ける。
米に来る前から真之はマハン大佐の書を英語版で読み、その後出た日本語訳も読みほとんど全巻を暗誦するほどに熟読していた。
米西戦争でも、スペインについて調べる時に漠然と調べるのではなく
なぜスペインは往年の栄光をうしなったのか
という点を知るために調べた。
時代がスペインに合わなくなった。
また、真之の読書感も勉強になりメモ
本は乱読
本はどういう名著でも数行、または数頁しか記憶しない
気に入ったくだりは憶えてしまい、あとは殻でもすてるように捨てる
従ってこれだけの多読家が蔵書というものをほとんどもっていない
それが戦争屋よ、海戦をするのに本をみながらはできまい
数行ぐらい、それに関心さえ強烈ならたれでも自然とおぼえられる
ただ、名文句にぶつかることがある
これは本の内容とはべつに、書き抜いておく
もっとも書き抜きの手帳を紛失することがあって参考にはならんがまあ憶えちゃいる
文章のリズムを体に入れる真之流の読書術だった
日露戦争を起こした時の皇帝ニコライ二世が24歳の皇太子だった時来日した
その時に一生の傷となる、
大津事件が起きる
この事件だけでも憎悪の対象となるのに、被告と関係のない一般女性が、ニコライ二世に詫びたい、と短剣でのどをかききって自殺するなど後世から見ると気味の悪い民族を生涯軽蔑した
また、ロシアはこの時代東へ東へと拡大することが自己目的化しているが、これはロシアのもともとの性質ではない
ユーラシア学派「モンゴル帝国であり、あとでロシア人がたてた帝国はその後継者である」という説
ここに原文載ってたからそのまま載せちゃえ
http://blogs.yahoo.co.jp/bmb2mbf413/29914900.html
当初は毛皮を得るために東へ向かい、この時期には不凍港を得るために領土を拡大し続けた
東征には「東を征服せよ」、という意味のロシア語であるウラジオストックが中心となった
清という異民族国家には忠誠はないものの、ロシアを筆頭に「中国を早く切り取らねば他国に先をこされる」というふいんきが満ち、政権に対する忠誠よりも郷土愛から起こった
北清事変から20世紀の中国史がはじまっていく
この巻は歴史や思考法も含め勉強になったのでメモが多くなってしまった。。
★5つにしたいものの、そうすると終盤になると★が足りなくなるので
★★★★