月曜日, 1月 09, 2012

戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ



ミスミの経営者として有名な三枝さん

日本はアメリカと比較してリーダー/経営者の育成が圧倒的に遅れている
30代で経営に参加して経験を積んでいかないとその差は開く一方、と危機感を提示する著者

内容は経営のとっかかりを読みやすい小説にしたもの
読み物としては80年代の学園ドラマ風というか、往年の少年ジャンプ風なので特筆事項はないものの経営書としてはもちろん勉強になる

ボスコンの出身でもあるので処女作である本作にはプロダクトライフサイクルや事業成長のルートなど有名な話も解説される
スター、金のなる木、負け犬、とかの例のアレ

もっとも本書の真骨頂は、親会社から派遣された常務取締役広川が営業方針を決め動き出していくところ

ドイツの会社、ドイツ化学に大きなシェアを奪われている状態でジュピターという技術的にはすぐれたアメリカ製品を売っているものの営業は進んでいない
どうすればこの状況をひっくり返せるか

ジュピターは臨床検査を自動化する機械
旧タイプは機械を使わないのに対して、ジュピターは安いもので450万、高いもので1250万
営業マンたちはここまで高額な機器がすぐに売れると思ってもらっては困る、という姿勢

営業マンたちは
価格が高い、ユーザは自動化に抵抗がある、病院が機械購入するには予算化のために1年ぐらい必要、という弁

ジュピターのメリットは旧タイプは検査一回が500円のコストに対して、ジュピターは250円で売れる
(広川は安かろう悪かろうの印象を与えるので値上げしたいぐらいと言う)
一回検査を行うと800円の検査料が保険基金から支払われる

広川は
従来であれば300円しか残らない検査が550円残るようになる、しかも人手がかからなくなる
売る側のロジックと買う側のロジックを加味したメリットを提示してセグメント分けしてあたれば、売れないほうがおかしい
と考える。
各病院が検査をする回数がわかればターゲットがわかるがそのデータは社内にはない
「そのデータがないのにどうやって値付けしたんだばかもん!」ととりあえず部下を怒る
正確ではないものの、ベッド数とおおよそ比例するだろうとターゲットを絞る

その後入手したデータでは300ベッドぐらいの規模の病院では少なくとも900/月程度の検査回数がある
これなら1.5~2年で初期投資を回収でき、その後は儲かっていくため金額の問題ではないはずとあたりをつける
また、ユーザ候補にヒアリングをしに行ったところ、自動化に抵抗はないとのこと

ジュピターに興味を持つ病院はベッド数にして200以上と仮定、全国には900の病院がある
9,000ではマスマーケだが900であればそこからさらにターゲットを絞り、個別撃破マーケができるので他社が類似商品を出してくる前に短期戦に持ち込める

アメリカのジュピター製造元では
去年120台販売、今年は150台見込
アメリカは日本の2倍の市場なので日本でもその半分ぐらいは売って欲しい
ヨーロッパは全体では日本の1.5倍の市場で年100台程度売っている
日本の去年の年間9台販売という数字は日本での代理店を変えようと考えているレベル

広川が立てた価格戦略は
・初期コストを無料にし検査薬を420円にする
・初期の機器代分を回収を終えた後は250円にする
として病院の予算化のハードルを劇的に低くした
「リスクがある!回収出来なかったら?」という抵抗もあったが、「ユーザ側にメリットがあるのに使わないわけがない」と諭した

戦略はできるだけシンプルに

次に
・売り込みに成功した場合の自社のメリットを縦軸に
・製品に対する興味、ニーズの強さを横軸に
して2×2のセグメンテーションモデルを作った
| ニーズ強い | ニーズ弱い
メリット大きい | A | B
メリット小さい | B | C
として、A->B->Cと順位付けをして営業をする

今回の場合は2×3にして
一般/個人/私大/医師会病院 | 国公立病院
ベッド数500以上 A | B
ベッド数300~499 B | C
ベッド数200~299 C | 除外
とした。

また、「営業マンが訪問しやすいところからいく」では自社旧製品とでカニバるだけなので、ドイツ化学の客先を優先とする2×3をつくった

ドイツ化学/その他競合 | 自社旧製品
セグメント魅力度A I | III)
セグメント魅力度B II | IV
セグメント魅力度C III | IV
とし、Iが終わる前には他の客先へのアプローチは禁止とした。

また営業進捗を、「うまくいってます」などあいまいなものから、お互いの共通言語として
F : まだ何もしていない
E : 第一回訪問,、挨拶、自社紹介など
D : 第二回訪問以降、何回行っても
C : デモおよびその後の訪問
B1 : 見積書提出およびその後の訪問
B0 : 価格などの条件交渉およびその後の訪問
A1 : 受注決定およびその後の訪問
A0 : 納品//売上
Z : アプローチ中止
として1ユーザごとに1枚の紙をつくり毎週の報告とした。

ここまでが本書のキモであとはめでたしめでたしフェーズ
1年後に販売成績は9->148台になりましたとさ、おしまい。