金曜日, 10月 26, 2012

坂の上の雲〈8〉 (文春文庫)



坂の上の雲、とうとう読み終わってしまいました

司馬さんの他の作品と同じく、オーケストラのよう
最初のうちはぶっちゃけつまんないんだけどw、物語の時代背景や伏線などに終始し、中後半からぐいぐいと本当におもしろい
坂の上の雲も最初一回投げ出したしw

1~7巻のすべてがこの有名な敵前回頭の伏線だったと思わせるほど海軍決戦は魅せる

設備で劣っていた日本軍は、
射撃命中率を上げればそれだけ設備面で実質上
という東郷の考えから存分に予行演習をしていた
国と国が莫大な予算をかけて舞台演出したこの日本海海戦は開始後30分でほぼ結果が出てしまった

日本海軍がのちのちまで天才と語り継ぐ秋山真之は途中から戦争が引き起こす惨事に精神に異常をきたし、早く戦を終え海軍をやめ坊主になることばかり考えていた。
=====
<本文から>
参謀長の加藤友三郎は、
(妙なやつだ)
と、真之の挙動をみて、にがにがしく思わざるをえなかった。
真之のやることは、どうみても軍人らしくなかった。第一、戦闘終了後に加藤とひとことも口をきいていない。机にむかって何か書きつづけているのはいいとしても、従兵が食事をはこんでくると、食器類を書類のわきにひきよせ、物を食いながら筆を動かした。
やがて仕事を終えると、加藤にあいさつ一つせず、ぷいと自分の部屋へひっこんだ。
真之は仰臥した。相変らず靴をはいたままであった。疲れきっていたが、神経が変にたかぶって、ねむれそうになかった。かれはすでにこのとき、作戦家でも軍人でもなくなって小液化いえるかもしれない。
(このいくさが終われば)
と、そのことを考え、それを考えることで自分の神経のたかぶりを鎮めようとしていた。この状態ではとうていあす再び艦橋に立つというような自信はなかった。かれがこのとき懸命に自分に言いきかせていたのは、この戦争がおわれば軍人をやめるということだった。
じつは真之は艦橋から降りたあと、艦内を一巡してしまったのである。
いたるところに弾痕があり、あの軽やかな濃灰色で装われた艦体は砲火と壌煙にさらされたためにひどく薄ぎたない姿になっていた。
負傷者が充満している上甲板は、真之が子供のころに母親からきかされておびえた地獄の光景そのままだった。どの負傷者も大きな砲弾の弾片でやられているために負傷というよりこわれもので、ある者は両脚をもぎとられ、ある者は腕がつけねから無く、ある者は背を大きく割られていた。どの人間も、母親のお貞がかれをおびえさせた地獄の亡者の形容よりすさまじかった。
かれは、昼間、艦橋上からみた敢のオスラービアが、艦体をことごとく炎にしてのたうちまわっていた姿の凄さを同時におもいだした。真之はあの光景をみたとき、このことばかりはたれにも言えないことであったが、体中の骨が慄えだしたような衝撃を覚えた。
(どうせ、やめる。坊主になる)
と、みずから懸命に言いきかせ、これを呪文のように唱えつづけることによって、その異常な感情をかろうじてなだめようとした。真之は自分が軍人にむかない男だということを、この夜、ベッドの上で泣きたいような思いでおもった。兄の好古はいま満州の奉天付近にいるはずであった。その好古へのうらみが、鉄の壁にさえぎられた暗く狭い空間のなかで灯ったり消えたりした。
秋山真之という、日本海軍がそののちまで天才という賞讃を送りつづけた男には、いわばそういう脾弱さがあった。かれは戦後、実際に僧になるつもりで行働を開始した。しかし小笠原長生らかれの友人が懸命に押し止どめたためようやく思いとどまりはしたものの、結局、戦後に出生した長男の大を僧にすべくしつうこく教育し、真之が大正七年に病没するときこの長男にかたくそのことを遺言した。大は成人後、無宗派の僧としてすごした。この海戦による被害者は敵味方の死傷者だけでなく、真之自身もそうであったし、まだ未生のその長男の生活もこの日から出発したといえる。
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本文抜粋記載するのめんどくさいなと思ったらすでにしてる人がいてアリガタス
http://www.geocities.jp/takesanwind/book/siba/sakanoue82.html


その後、白旗を掲げたネボガドフ艦隊に容赦なく砲弾を撃ち込む東郷サァの姿も印象強い
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秋山真之「長官、敵は降伏しております! 発砲を中止しましょう!」
東郷平八郎「……………」
秋山真之「長官! 武士の情けであります! 発砲を已めて下さい!」
東郷平八郎「ほんなこって降伏すっとなら、そん船を停止せんにゃならん。見やんせ。敵はまだ、前進しておるじゃなかか」
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確かに海戦の国際法上、降伏するには船を停止しないといけない
東郷は幕末から日本が経験した海戦をすべて経験してるだけあって精神的に強い
日本海戦の時も身動き一つせず、海戦なので当然船の上は濡れまくるわけだけど、一日目の終わりに東郷が指揮していた場所を離れるとそこだけ足型に乾いていた、という
こんぐらいタフにならんといかんね

また、あとがきも本文ほどではないけど面白かった
司馬さんが
実質執筆に費やしたのは5~6年ほどだけど、調査を含めると10年使った
ロシアの原文の本もあたった
私の40代全部費やしました

とのこと。
やはり何かを成し遂げる男は違う。小説なんて畑違いの分野だけどかくあらねば。
そりゃ何百人何千人が集まった大河ドラマより、一人の男がここまで真剣にやったほうが断然おもしろいよ


あー。終わっちゃった。
日本人なら当然オススメです。
面白い中後半だけ読めばいいんだけど、それだと背景が足りないから結局全部読まないとねw

★★★★★