月曜日, 8月 29, 2011

「1秒!」で財務諸表を読む方法―仕事に使える会計知識が身につく本



手には取ったものの、"「1秒!」で"と書かれていることから、読み始めるまではナンパな会計本かと思っていました。

読み出すと、駆け足ではあるものの要点が適切に盛り込まれた良著です。

1秒だけ見るとしたら・・・
B/Sで
流動資産>流動負債
であり、当面の安全性をチェックする。
ただし、
日銭が入り
投資が大きくない/投資が済んでいる
業界/業種なら流動資産/流動負債が1を大きくした回っても危険ではない。
例:小売や電力、鉄道など
逆に、売掛の資金回収が遅い業種では1を大きく上回らないと危険。
例:国保に介護保険金請求をしても入金に時間がかかる介護ヘルパーの会社など。

B/Sの右側、負債と純資産の違いは重要
負債:借金
純資産:株主から預っているカネ、解散でもしなければ返済義務はない
なぜこの違いが重要か?
それは、「会社は借金が返せなくなって倒産する」から

自己資本比率 = 純資産/資産 が高い企業が優良であるが
高い自己資本比率&低いROEはブルドックソース(75.7%であった)など、外資に狙われやすい。

流動資産/流動負債 は重要な指標であるが、B/S作成時のものなので情報が古い可能性がある。
その場合は、
手元流動性 = (現預金+すぐに売れる有価証券)/月商 (月商=年商/12)
が重要。

花王はカネボウの化粧品部門を借金をして買収した。
それは、目的の一つに
高すぎる自己資本比率を下げる
があったためだと思われる。
カネボウ買収前と後とでは、花王の自己資本比率は65%から42%に低下した。

自己資本比率が高いと買収されるからか?
安全性をクリアした企業にとっては高い自己資本比率は別の問題がある。
それは「負債と純資産の調達コスト」。

負債の調達コストは金利
ただし、無利子負債の割合が高い企業にとっては調達コストは0に近くなる。
それに対して純資産の調達コストは配当ではなく「株主の期待利回り」
株主の期待利回り = 国債金利プラスアルファ
となる。
このプラスアルファは数%から10%以上まで企業によって変わってくる。
優良企業でも純資産の調達コストは5%程度かかってくる。
つまり 負債の調達コスト << 純資産の調達コスト
特に上場企業ではこのバランスが問題となる。
純資産の調達コストはキャップエムCAPM(Capital Asset Pricing Model)という定義に沿う。

花王はこの
負債の調達コスト(X%)
純資産の調達コスト(Y%)
を加重平均したワックWACC(Weighted Average of Cost of Capital)を意識した。

WACCが高いと何が起きるか?
資産を使って得られるべき利益も応じて高くなる。
WACCが高い = 高いリターンを期待される
となる。
営業利益ベースのROA > WACC
でなければならなくなる。
花王のように高自己資本比率であるとWACCが高くなり、応じて高ROAを稼がなければ株主が納得せず株価低迷につながる。
そのためWACCを下げるために花王は負債中心で調達しカネボウを買収したと考えられる。

トヨタも(無借金経営と誤解されることが多いが)総資産33兆に対し12兆もの有利子負債がある。
これは意識的にWACCを下げるための資金調達を行っているためと考えられる。

一時期外資ファンドが盛んに株を取得しプレッシャーをかけていたのは
高自己資本比率で低ROE(純利益ベース)
な会社
なぜい高自己資本比率を狙うのか?
それはLBO
借入金を大きくしてファンドの運用成績を上げようとしている。
高自己資本比率のほうがリスクが少ない。
なぜ低ROEを狙うのか?
それは低ROEであれば株価低迷となるから。

キャッシュフローについて
日産は2007年度決算で増収減益となり、増収増益であったトヨタやホンダと比べると落ち込んだ。
それは、90年代のキャッシュフロー計算書を見れば予想ができた。
キャッシュフローでは
営業キャッシュフローでいかに健全に稼いで
投資キャッシュフローでいかに未来投資をしているか
がキーとなる。
コストカットが続いたため
有形固定資産の取得>=減価償却費
という、健全な再投資ができていなかった。
そのためハイブリッドカーや燃料電池車でライバル企業に遅れをとった。

月曜の日経新聞「景気指標」は面白い。これで140円は世の中で最も安い商品の一つ。
傾向を見ると
現金給与総額(厚生労働省発表の賞与を含んだ一人あたり給与)は下がっている。
法人企業統計・全産業の営業利益はプラスになっている。
企業業績はよく経済全体の状況も悪くないのに平均給与所得は下がっていることが数字でわかる。
その影響で、消費支出、小売業販売額、全国百貨店売上高、も弱い。
完全失業率は5%台が4%前後まで下がっている。
有効求人倍率(求人数/求職者数)も上がっているので地域と仕事を選ばなければ日本では仕事が得やすくなっていることがわかる。
正社員の募集が少ない、ということも想像ができる。

国内企業物価指数、消費者物価指数、輸入物価指数を見ると別の角度からこの事象を裏付けられる。
輸入物価指数は上がっている。
企業の仕入れにあたる国内企業物価指数もそれに伴って上がっている。
ただし、最終消費財の値段を表す消費者物価指数は上がっていない。
これは企業が価格競争のために仕入れが上昇しても商品の値段に転嫁できていないことを表す。
仕入れが上昇する中で利益を出さなければならないとすると現金給与総額が上がらないことも数字からわかってくる。

利益の算出定義は
売上高 - 費用 = 利益
であるが、最近の企業はそうではなく
売上高 - 利益 = 費用
と考えている。
つまり
想定売上高から出すべき利益をまず決めて、売上高からその利益を引いたものの範囲に費用を抑える
という考え方。
「経営計画はまず利益から立てる」考え方になっている。

なぜ利益にこだわるか。
ROA >= WACC であるべきだから。
資産から見ても稼がなければならない利益がある。
著者はROAで5%以上、ROEでは10%は必要と考える。

次に働く人の福利を向上させるため。

また、利益を出さなければ借入金の返済計画に支障をきたすため。株主の配当や高株価の期待に答えるため。

1. 企業の延命
2. 未来投資
3. 従業員の福利向上
4. 株主還元
5. 社会還元・税
利益は自社や社会を良くするためのコスト

さらっと読めて要所参考になる書籍でした
★★★★


追記:
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